そのひとの人生はそのひとのもの ≪ココロン博士の子育てゼミナール≫

2015年5月 みえこども新聞 第三十七回 ココロン博士の子育てゼミナール より

 

こどもの不調を知るきっかけはいくつもありますが、

その一つに頻尿があります。

 

ある子がしょっちゅう、しょっちゅう、トイレに行くようになりました。

 

とっても元気がよく、能力も高く、はきはきしていて頑張り屋さんでいいこです。

 

おかあさんが心配して病院に連れていくと、

「ストレスじゃないか?」と先生がおっしゃったそうです。

 

この先生は正直な方だなと私は思いました。

クライアントさんからお聞きした情報からですが、

私の経験上、

原因を言わないで薬を処方するか、

親がこどもを連れてきた場合にはストレスという言い方をせず、

“うつ”という言い方で

学校でのいじめなどをにおわせることが多いようです。

 

それは“家庭でのストレス”ではないかと思っても、

それを言うとお母さん方はたいてい、それを言ったひとに敵意を向き出しにすることがとても多いからだと思います。

 

二度とその病院には行かず、自分が期待している回答をしてくれるところを信頼する傾向にあります。

 

自分に自信があるひとに多いですが、

「ストレスじゃないか?」→「あなた(親)のかかわり方(家庭)に問題があるんじゃないか?」

と責められたような気がしてしまい、カッとなり、

“無能な医者”とラベリングし、攻撃性を“中傷”と言う形で解消し、自己防衛したりします。

 

自分は間違っていない!

 

と言った高いプライドですが、実はそのプライドはもろく、自尊心が低い人であったりします。

 

このおかあさんの反応はというと、

「ストレス!?この子がぁ!?笑!?」

と納得がいかない、信じられない様子でしたが、

“怒りや攻撃性”ありませんでした。

それに対し、対処を考えようとする賢さを感じました。

 

『まだまだ動き(運動)が足りないんだ』と解釈して、

これまで以上にカブトムシ捕りや川など遊びに連れていくようになりました。

 

でも、いっこうに頻尿が減っていかないことと、

家で時間があるとすぐにゴロゴロしだす姿にだんだん不安を感じてきたようで、

 

「どうしたら満たせるんでしょう?

おじいちゃんたちも連れだしてストレス発散させているのに・・・」

 

「家でゴロゴロしているのを見ているとイラついてきて!

時間がもったいない!なんかさせなきゃ!なにやってんの!?

ってみていると腹が立って、腹が立って、嫌で嫌で・・」

 

と言います。

 

おかあさんにこどもの様子を聞くと学校でも家でも“正義”“自己主張”という形で喧嘩っ早く、乱暴な様子もあります。

そして一週間ほぼ、毎日、スポーツや勉強などの習い事がありました。

自宅で教材もとっています。

 

この子は暇な時間、退屈する時間、ごろごろする時間がないですね。

 

教育熱心なおかあさんですので、睡眠時間はしっかり確保されていますが

そうじゃないですね。

 

自分で自由に使えて、自分が無駄にできる、

『余りの部分、余裕の時間』

がないのです。

 

「ゴロゴロする時間が大事」

 

どんなに説明しても、

どんなにどんな時間が必要で確保してほしいかを具体的にお話ししても、

 

“こどものうちにいろんなことを身につけさせたい!”

 

“こどものうちしか才能は開花させることができない!能力が育たない!”

 

という焦燥感があり、

英才教育的価値観を手放せません。

 

それでも、しばらくして

 

一向に良くならない、続く症状が気になります。

 

おかあさんはとても一生懸命な人で教育熱心すぎて、

どうしてもお話ししたことを実践に受け入れられないけれど、

こどものことはとても愛していて、根は素直な人なので、半泣きで訴えます。

 

「やっぱりあそびが足りないんだと思うんです。

エネルギーが有り余っているんだと思うんです。

能力を発散しきれないんだと思うんです。

だからイライラして友達にもきつくなるんだと思うんです。

だから最近、前よりまた怒りっぽくなったし、暴言吐くし・・。」

 

「“もっと練習したい”“もっと上手になりたい”“もっと頑張りたい”“一番になりたい”

っていっつもいうんです。

もっと、本格的なトレーナーや先生がいるところ(すべての習い事を)に変えようかと思うんです。

こどもの願いをかなえられるんなら、どこにだって(遠方や都会)いくらお金がかかっても行こうと思うんです。

都会だったら、プロの選手だった人が教えてるところもあるのにここらへんはレベルが低いから・・」

 

自分の願望を手放せないんですね。

 

もしも、私が言っていることを認めてしまうと、いまやっているとおりの子育てができない。

見直さなければならなくなる恐怖に襲われます。

 

こどもに“ゴロゴロの許可”を余儀なくされます。

何かを割いて“無駄な時間”をつくらなくてはなりません。

 

このおかあさんの背景にも、おかあさんのご両親にも、

 

こどもの人生を代理にした、“自分の人生のやり直し”

 

が見え隠れします。

 

心の防衛機制の『同一視』『摂取』が見えます。

 

こども(孫)の頑張りで心の安定が得られ、さらに、こども(孫)の活躍から、

優越感が得られます。

 

応援は、結果を出せば出すほどとにかく楽しく、

周りの羨望や他の家族から声をかけられることがとにかく誇らしい。

 

準優勝などであるときは、それなりの青春ドラマのような悔しさと情熱を感じ、

「次こそ、優勝だ!」と燃え、家族一体感が心熱く心満たすのです。

 

こどもはなぜ、

疲れているのに家族が喜ぶことを自ら言い、

頑張り、

自ら自分の首を絞めるか。

 

おかあさんもおとうさんもおじいちゃんもおばあちゃんも、

みんなが自分を愛してくれていて、

自分の言動一つで一喜一憂してくれるからですよ。

 

こどもは家族が大好きで

いつも笑顔にさせてあげたいと願うし、

どれだけでも幸せを感じさせてあげたいと願うんです。

 

大好きなんですよ、家族のことが。

 

アダルトチルドレンの『ヒーロー』ですね。

 

この子には、

“どんなあなたでも愛している。どんなあなたでもいいんだよ。”

という許可が必要です。

 

「症状よりも表情です。」

 

この一言でほんの少し、一時的にこどもへのたずなが緩み始めました。

それに伴い、少しずつ、表情がおだやかになり、

怒りっぽかったのは落ち着き、頻尿が治まるなど、どんどん改善していきました。

 

でも、ひとは未来は見えません。

喉元過ぎれば熱さを忘れる

です。

 

残念ですね。

人生をこどもに返してあげられるチャンスだったのに・・。

 

習い事を増やしたり、変えたり、練習量を増やしたりしていけば、

こどもは後戻りの選択肢を失っていきます。

 

『自殺は親への復讐』

と言われることがあります。

 

これは心理学の人生脚本の例の一つであり、

“自殺”というのは例えであったり、

自己破滅の脚本のひとつのパターンのことを指していっています。

 

親の期待にこたえなければならないという強迫的な人生脚本を持った人が

大人になったときにこどものころのように社会などで活躍することができず、

挫折を目の前に乗り越えられない壁にぶつかったとき、

意識をせずとも、心気症などを発症するなど、自虐に向かうことがあります。

 

“存在するな”の禁止令が働くのですね。

 

すべての子が期待をかけられて不幸になるかと言うとそんなことではありません。

「ひと」に関することで“逆もまた真なり” はありません。

 

ほどほどの期待やちょうどいいくらいの応援はこどもの成長と能力を促進させ、

勝利者の脚本に寄与します。

 

ですから、期待や応援が『悪』と理解するのではなくて、

 

ちょうどいいくらい

 

さじ加減

 

を常に意識して熱意を暴走させることなく、

こどもを無償の愛情ベースで成長を促せたらいいですね。

 

水野優子  株式会社オフィス優HP